今日はヴェニスに来て初めての休日、といっても朝から衣装の打ち合わせがあったのでそうともいえませんが。久しぶりに晴れわたった青空の下から流れて来る空気をかき分けるように、すこし急ぎ足で、いくつ渡ったかわからないほどの数の小さな橋を越えて、ようやく衣装のアトリエに辿り着きました。大きな鏡がいくつもあるアトリエの入り口には色彩豊かな仮面や装飾が溢れています。すこし前にあった有名な仮面カーニバルの衣装を作り、貸し出しもしていたそうです。私はヨーロッパの様々なオペラ劇場で衣装を作る機会がありましたが、このアトリエはいわゆる舞台衣装というより、きちっとしたテイラードの洋服やファッションの世界に近い服作りの質と高度な技術をもっているようです。このアトリエでは映画の「エリザベス」や「パイレーツ オブ カリビアン」の衣装も作られたそうです。
私が描いたデザイン画を既に受け取っているスタッフたちとともに布、生地の材質や色の選び、それらが誰の為かを細かく決めました。目が回りそうな打ち合わせは楽しく、全体のバランスもうまくいくことを確信しました。私はこのように技術をもった職人たちが黙々と作業をつづけている仕事場が大好きです。彼らは静けさの中に尊敬と的確さという正しい寸法の部屋を作っているようです。その鍛えられた技術者と交わす別れ際の挨拶のなんと清々しいことか。外に出て、爽やかな風が運ぶ冬の海の匂いを呼吸すると、今日はやはり休日なのかもしれないと思ったのです。