FRAGMENTS 勅使川原三郎ブログ

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今、ぼくはニューヨークからバルセロナに移動しようとしています。リンカーンセンターフェスティバルでの「ミロク」三日間の公演を終えたところです。三日ともソールドアウトの盛況で、公演もとても良い出来でした。この「ミロク」という作品はまだまだ成長していきそうです。以前とは違う感覚をこの作品から生み出していると言えるでしょう。舞台では身体感覚のぎりぎり限界で踊っています。それが以前より出来るようになっているのです。自分を精一杯客観的に見るとして身体の自己制御という問題をすこしずつ進めているということなのかもしれません。ダンスが作品を作ったら終わりではなくて、全てはそこから始まり、その先がどこに向かうのかを知っている者はいないのです。どんなに知ったかぶりをしても駄目です。逆だからこそダンスは面白いのです。厳しいのです。感覚が技術を伴って初めて表現になるのですから、他人の目より厳しい自分への客観的視点が高度に観察力を持たなければ到底持続的な表現活動は可能ではありません。この春の北米とヨーロッパツアーは、「ミロク」、「オブセッション」そして「鏡と音楽」の三作品で成立しています。ソロ、デュエット、グループの三種類の出演者構成ですし、舞台構造、装置や音楽も異なるわけですが、出演者の舞台経験の違いも面白いのです。ダンスは常に次のまだ来ていない、来るべき瞬間へ向かう身体と精神の姿勢を問われるとも言えるわけですが、出演者の各個人が厳しく自己を客観視できなければ集団としての作品は構成されません。まだ十代のメンバーもいるKARASの稽古は常にそういう基本の個人の責任を問いかけます。それは指導する為ではなく、各自の自覚的発想、つまり想像力から生まれる客観性こそ大事なのだと問いとも言える課題を常々共有しています。難しく聴こえるかもしれませんが、十代の彼らでも研鑽を積めば理解出ることなのです。なぜなら全ては身体とともにある課題だからです。ダンスはそういう面白くも難しい問いを常に解いていくことなのです。
 
 灼熱の太陽の下、ニューヨークはすこし陽が影ると一挙に涼しく感じるのは東京のような湿気がないせいでしょう。「ミロク」の最終公演を終えると早速劇場の楽屋で、ワールドカップの決勝戦スペイン対オランダの途中経過をチェック。最近はWiFiが様々な所で使える。経過は後半で0-0。夕方の爽やかな空気を縫うように急いでホテルに戻りテレビをつける。その次の瞬間、スペインのイニエスタがゴール!やった?!!!イニエスタは大好きなプレイヤー。最高の技術と判断力、柔軟性と気転が利く、フェアプレーだし、全てが最高なのだ。いわゆる、幼児のような顔でオヤジのようでもある「赤ジさん」なところもとてもいい。そんなイニエスタがゴールを決めた後、ユニフォームを脱いで観客に向かって走った。下に着ていたシャツには去年試合中に死んでしまった友人へ向けて、君はいつもぼくたちと一緒だと書いてあったという。試合中にユニフォームを脱ぐとイエローカードだが、イニエスタは正しい行動をとったことになる。スペインが勝ったのでうれしいのとお腹が空いたので食事に出ると、劇場のすぐ近くのコロンバスサークルの噴水の広場ではすでにスペイン系の大勢の人々が勝利の雄叫あげて盛り上がっている。いろんな方向から増々人数が増えていくようだ。みんな赤いスペインのユニフォームを着て歌を歌い踊っている。いいなあ、さぞやうれしいんだろうな。ワールドカップ優勝なんてたまんないだろう!とぼくもなんとなく興奮して、本田や遠藤のゴールに飛び跳ねていたのを思い出す。ついさっきまで、近くの劇場で「ミロク」を踊っていたのが不思議に感じる。しかし空は再び爽やかに晴れ渡って夕方の空気が気持ちがいいし、最高の決勝戦いや楽日になったのだった。しばらく歩きたい気分になった。

 明日はまさに優勝したスペインへ向かう、それもバルセロナだ。さぞや盛り上がってるだろうと期待。公演するのは「鏡と音楽」で、去年の秋の初演以来で今回がヨーロッパ初演になる。ぼくがニューヨークに来ている間、東京では他のメンバーは暑い稽古場で大量の汗をかいていたことだろう。彼らに会うのも楽しみ、彼らのダンスを見るのも楽しみ、ぼくは佐東利穂子をはじめ彼らにはある意味で厳しいけど、ぼくはみんなのダンスが大好きなのだ。彼らが踊るのを見るのはとても楽しい。常にではないが、彼らの持っている才能を大いに買っている。初めに書いたように各自の自覚に全てはかかっている。FCバルセロナのカンテラという教育機関は十代前半から一貫した練習理念、技術や戦術の教育を行なっている。ワールドカップ優勝の主要メンバーのバルセロナの選手たちは皆このカンテラ出身である。面白い事にその機関の基本理念は、決勝で負けたオランダの元代表選手クライフがつくったと言われている。クライフはオランダからバルセロナに選手として移籍し、その後監督になった。バルセロナでは最高の尊敬とともに信頼されている。彼の知性と精神が世界のサッカーの手本になっているといって過言ではないだろう。
(元々ぼくはサッカーが大好きで、サッカーの事になると話すのも書くのも考えるのも止まらなくなってしまうのでこの辺で終わります。いつか、サッカーの事だけを書いてみたいと思います。今のぼくの考えや発想、そして表現に大きな影響を与えたサッカーはいつまでも魅力的です。ちなみにサッカーに限らずスポーツ全般が好きなのです。限界の厳しいところでぎりぎりに生きる人間が美しいからです。)

2010年7月15日 21:20

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